そんな中の1つ,この度自由現代社から発売された「はじめての<脱>音楽 やさしい現代音楽の作曲法」において,巻末の付録部分に「OpenMusicの基礎」と題してIRCAMによる作曲支援ソフトウエアOpenMusicの初歩的な使い方を掲載する部分を執筆させていただきました.
OpenMusicは,現代音楽の作曲において多く用いられていながら,日本国内においては紹介される機会も少なく,あまり武器として使っている作曲家は見かけません.しかし,現代音楽史上でも存在感のある作曲家が多く使っていることも事実で,彼らの足跡を辿る良い手がかりにもなり得るソフトウエアです.
しかし,付録として掲載したので,簡単な操作方法の説明と,私が例題として作ったプログラム例を載せるのみにとどまってしまっています.正直な話,あの記事を読んだ結果,OpenMusicの使い方がわかったとして,それを使いこなして創作を行えるかというと,かなり難しいかもしれません.そこで,本ブログで,少しずつではありますが,本付録の補填記事を掲載していきたいと思います.(本記事を読む前に,「はじめての<脱>音楽 やさしい現代音楽の作曲法」を買って読んでくださいね〜)
今回は,プログラマであれば一番気になるところ「OpenMusicプログラミングにおける制御構造」です.本来,プログラミング言語や環境を紹介するときは,これを真っ先に説明しなければならないのですが,本書は作曲法を説明する本であり,プログラミングの本ではないので,省略しました.
まず,比較のために,Maxの制御構造も確認してみましょう.今回作ったのは,非常に簡単なプログラム「100に1を足して100+1=101をコンソールに表示するプログラム」です.こんな感じ.
実践的なMaxプログラミングに慣れている方は状況に応じてもっと違った作り方をするかもしれませんが,今回は,制御構造を説明しやすいように画像のように作っています.
Maxのプログラム制御で押さえておきたいのが,
・データが第1インレットに入力されたらアウトレットからデータを出力し,次のオブジェクトに入力される(これがオブジェクトの繋がっている分だけ繰り返される)
・あるオブジェクトからの出力は,右→左の順番でデータが出力される
の2点です.これらを踏まえてこのパッチを見てみると,このような順で処理が行われているということになります.
上記2点の法則に従った順番になっていることを確認してみてください.
Maxはインタラクティブ操作を前提としたイベントドリブンプログラミングになっており,そのため,入力→出力というデータの流れが視覚的にうまく表現されている,非常に優れたプログラミング環境だと思います.
さて,同様の処理をOpenMusicでやると以下のようになります.
このパッチのprintオブジェクトを右クリックして,"Eval Box"をクリックすると,OM Listenerウィンドウに計算結果が表示されるわけです.
この,Eval Boxをクリックした時に,プログラムが実行されるのですが(Maxのインタラクティブなイベントドリブンプログラミングに慣れているとここが分かりづらい),この時,次のようなことが起こります.
・あるオブジェクトがEval Boxされると,そのオブジェクトのインレットに接続されているオブジェクトにデータを要求する
・データを要求されたオブジェクトがデータを持っていればそれを出力する
・データを要求されたオブジェクトがデータを持っていなければ,さらにそのオブジェクトのインレットに接続されているオブジェクトにデータを要求する
・要求の結果,データがインレットに入力されれば,処理してアウトレットから出力
・これをEval Boxしたオブジェクトから上のオブジェクトのつながりの数だけ繰り返す
この箇条書きで分かりましたでしょうか?とても難しいですね.これも,図に処理手順を書くと下のようになります.
Maxとは違い,下から上に要求が伝わり,データが処理されていることに注意してください.
尚,上の図において③と④の順番は,左から右の順でデータが到着しており,Maxとは逆です.この点については,私も現状そこまで詳しくないので,もしかしたら逆かもしれません.しかし,他の処理での挙動を見ていると,どうやら左から右の順でデータが処理されているように思います.
ごく簡単なパッチでのご紹介になりましたが,これがOpenMusicにおけるプログラミングの制御構造になります.このような面倒なことを知らなくても,冒頭紹介した本の付録で紹介した程度のプログラムを作成することは可能です.しかし,omloopや条件分岐等,プログラミングの醍醐味と言える処理を取り入れたパッチを作成しようと思うと,こうした制御構造の理解なしでは自分の意図通りの処理を実装することはかなり困難です.
それではよいアルゴリズム作曲ライフを!!
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