2017年8月1日火曜日

ヤニス・クセナキス「音楽と建築」復刊記念(蛇足)〜現代に蘇ったUPICことIanniX〜

前回の記事,いかがでしたでしょうか?今般,彼の著書「音楽と建築」が復刊されたヤニス・クセナキスについて,その手法の一端をMaxのプログラムとして実装しました.

クセナキスのとりわけ初期の作品において特徴的だったのは,昨日の記事でも触れた,沢山のグリッサンド群を重ね合わせた構造を生み出す作品です.



これは,昨日の記事で名前だけ出てきた彼のデビュー作「Metastasis」です.音を聞くと,この線の通りにグリッサンドを多重した音響構造が浮かび上がってきているのが感じられると思います.

こうした作曲法をより直感的に実践するために彼が開発したコンピュータプログラムにUPICがあります.


タブレットとタッチペンを使って線を描くと,横軸を時間,縦軸を周波数とした音響を生成します.建築家でもあった彼らしいアプローチです.


1978年時点でこのような機能をもったプログラムは,非常に先駆的で,UPICは多くの作曲家によって使われることになります.

しかし,UPICは1978年のコンピューティング環境で開発されたプログラムです.このプログラムは,コンピュータの進歩とともに,姿を変えながら受け継がれることになります.

現在では,オープンソースのソフトウェアIanniXとして公開がされており,誰でもダウンロードして利用することができます.


IanniX自体が行うのは,IanniX本体がクライアント・アプリケーションとなって,ユーザが描いた図形からOSCでサーバ・アプリケーションに演奏情報を送信するだけです.音響信号として合成するのは,サーバ・アプリケーションが行います.OSCが受信できれば,演奏情報から音響信号を合成する処理は自分で実装すればよいので,サーバ・アプリケーション自体は何でもいいのですが,IanniX付属のMaxパッチがすぐに使えていいと思います.(他にPdやProcessing 等の環境で実装されたサーバ・アプリケーションが付属しています.)

IanniX本体を立ち上げ,"Patches/Max"フォルダにある"Max Sound Example.maxpat"を起動します.




IanniXの画面はこのようになっています.


例えば,Draw a Smooth Curveを選んで線を引きます.クリックするごとに曲線の制御点が増えていき,ダブルクリックで作図を終了します.


Adds a timelineを選択して,図の横軸の時間軸の開始地点を挿入します.矢印キーで左右にずらすことができます.



再生ボタンを押すと,この図の縦軸を周波数とする音響が,Maxパッチから再生されます.


様々なモードを使い分けて様々な特徴を持つ音を追加できます.





Examplesも非常に充実しています.

こちらはMetastasisの楽譜.


他にも面白い音が作れるサンプルが沢山付属しています.


クセナキスが自分の作曲における技法を解説した「音楽と建築」を読み,IanniXで彼の技法を追体験するのも楽しみ方の一つかもしれません.

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