2017年8月11日金曜日

Signal Bottomシンポジウムで発表しました

およそ半年ごとに開催されている技術者・研究者のプレゼン飲み会"Signal Bottom"のシンポジウムで発表しました.

信号処理・組み込み技術・電子工作およびそれらに関連した数学や物理学・ソフトウェア工学,更には応用事例や研究の紹介までをカバーする飲み(意見交換)会で,酔漢さんによって企画・運営されています.

そんなSignal Bottomの今年7月に行われたシンポジウムで,僭越ながら発表させていただきました.この回は一般に公開できる内容であれば事後にプレゼン資料をwebサイトで公開することになっており,私の発表スライドも公開させていただきました.


内容的には以前このブログで紹介した物理シミュレーション音源合成法Karplus-Strong合成についてです.当日は,Maxで実際にこの合成法を実装しながらデモするという形式をとりました.

また,本ブログでは取り上げていない話題として,Karplus-Strongを用いたオンド・マルトノのパルム・スピーカの再現実験(パルム・スピーカの弦をKarplus-Strong合成器と考えてオンドマルトノの音を合成器に入力する),類似の合成法としてPerry CockのSlideFluteの紹介とデモを行いました.

今回参加して一番戸惑ったのは,参加者の一人だった光エレクトロニクス分野の研究者に「ピッチ」という言葉とその物理的意味が共有できていなかったこと.音響分野ではもはやその意味も物理的に何を言っているかも常識であろうと思われるこの概念が,分野が変われば何を言っているか理解されないというのは,非常に驚きました.結局,こうした議論を重ねた結果,私の発表は時間をかなりオーバーしてしまい,ご迷惑をおかけする形となってしまいました.幅広い分野の専門家が集まるSignal Bottomだからこそ起こる現象で,最も刺激的な瞬間です.こうした刺激を体感できるのは,自分が発表者として参加した時により強く感じることができます.

技術者・研究者の皆さん,Signal Bottomでは参加者の輪が今後も広がっていくことを望んでいるようです(多分).信号処理・組み込み技術・電子工作に興味のある皆さんはSignal Bottomに参加してみませんか?私の知り合いの方でしたら,私から会や酔漢さんを紹介することもできますし,酔漢さんにTwitterで話しかけてみると,大喜びで案内してくれると思います(多分).

2017年8月1日火曜日

ヤニス・クセナキス「音楽と建築」復刊記念(蛇足)〜現代に蘇ったUPICことIanniX〜

前回の記事,いかがでしたでしょうか?今般,彼の著書「音楽と建築」が復刊されたヤニス・クセナキスについて,その手法の一端をMaxのプログラムとして実装しました.

クセナキスのとりわけ初期の作品において特徴的だったのは,昨日の記事でも触れた,沢山のグリッサンド群を重ね合わせた構造を生み出す作品です.



これは,昨日の記事で名前だけ出てきた彼のデビュー作「Metastasis」です.音を聞くと,この線の通りにグリッサンドを多重した音響構造が浮かび上がってきているのが感じられると思います.

こうした作曲法をより直感的に実践するために彼が開発したコンピュータプログラムにUPICがあります.


タブレットとタッチペンを使って線を描くと,横軸を時間,縦軸を周波数とした音響を生成します.建築家でもあった彼らしいアプローチです.


1978年時点でこのような機能をもったプログラムは,非常に先駆的で,UPICは多くの作曲家によって使われることになります.

しかし,UPICは1978年のコンピューティング環境で開発されたプログラムです.このプログラムは,コンピュータの進歩とともに,姿を変えながら受け継がれることになります.

現在では,オープンソースのソフトウェアIanniXとして公開がされており,誰でもダウンロードして利用することができます.


IanniX自体が行うのは,IanniX本体がクライアント・アプリケーションとなって,ユーザが描いた図形からOSCでサーバ・アプリケーションに演奏情報を送信するだけです.音響信号として合成するのは,サーバ・アプリケーションが行います.OSCが受信できれば,演奏情報から音響信号を合成する処理は自分で実装すればよいので,サーバ・アプリケーション自体は何でもいいのですが,IanniX付属のMaxパッチがすぐに使えていいと思います.(他にPdやProcessing 等の環境で実装されたサーバ・アプリケーションが付属しています.)

IanniX本体を立ち上げ,"Patches/Max"フォルダにある"Max Sound Example.maxpat"を起動します.




IanniXの画面はこのようになっています.


例えば,Draw a Smooth Curveを選んで線を引きます.クリックするごとに曲線の制御点が増えていき,ダブルクリックで作図を終了します.


Adds a timelineを選択して,図の横軸の時間軸の開始地点を挿入します.矢印キーで左右にずらすことができます.



再生ボタンを押すと,この図の縦軸を周波数とする音響が,Maxパッチから再生されます.


様々なモードを使い分けて様々な特徴を持つ音を追加できます.





Examplesも非常に充実しています.

こちらはMetastasisの楽譜.


他にも面白い音が作れるサンプルが沢山付属しています.


クセナキスが自分の作曲における技法を解説した「音楽と建築」を読み,IanniXで彼の技法を追体験するのも楽しみ方の一つかもしれません.