というわけで,ずっと憧れだった音響分析・合成ソフトウェア "Audio Sculpt" を買いました.
このソフトを販売しているのは,フランスのIRCAMという研究所で,日本語ではフランス国立音楽音響研究所と呼ばれる組織です.ここでは,電子音楽やメディアアート等の作品制作や,それに付随する技術の研究開発が行われていて,フランスの現代音楽の拠点とも言える施設です.電子音楽やメディアアートの世界で有名なソフトウェアMaxがIRCAMで作られたことはあまりにも有名です.
IRCAMを拠点として,フランスでは「スペクトル楽派」と呼ばれる現代音楽の潮流ができました,スペクトル楽派とは,音響学や音響信号処理の知見を音楽として再解釈して楽曲を構築する流派で,創始者の一人と言われるトリスタン・ミュライユという作曲家が有名です.(スペクトル楽派やその音楽は知らなくても,トリスタン・ミュライユという作曲家の存在を知っている人は多いと思います.)
スペクトル楽派では,音響の知識を楽曲として昇華させるので,作曲の際には音についての綿密な分析,解釈,合成が不可欠です,そういった事を音楽家が行うためのソフトウェアがAudio Sculptです.Sculptとは彫刻という意味.音をまさに彫刻のように加工する事ができるソフトウェアです.
買ったばかりなのでまだ簡単な事しかわかりませんが,あまりwebで紹介している例がないので,簡単な使い勝手を紹介します.
Audio Sculptは,IRCAM Forumというサイトで販売されています.ここでは,IRCAMの研究開発の成果がソフトウェアやライブラリとして有料・無料で配布されています.Audio Sculptは有料ソフトウェアで,€180.00です.
Audio Sculptで音声ファイルを開くとこのような画面になります.
この段階では再生ができるだけです.▶︎ボタンを押せば音声が再生されます.
Analysis -> Sonogram Analysis
を選んで,分析の各パラメータを設定して,"Do Analysis"をクリックすると,
波形の下にスペクトログラムが表示されます.Audio Sculptでは,このスペクトログラムをまさに彫刻のように加工して,音を再合成する事ができます.
例えば,"Selectio Tool"モード(画面左上のボタン群の二番目)を選択して,スペクトログラム内のある範囲を選択し,Edit -> Cut を行うと,選択範囲をごっそり消す事ができます,
ここで,SVPと書かれた再生ボタンを押すと,今行った編集が適用された音声を聞く事ができます.ただし,ここで聞けるのは,あくまでもプレビュー的なものなので,上段の波形や,画面右のスペクトル表示はオリジナルのままです.
こんな風にフリーハンドで範囲を選択する事もできます.
また,範囲を選択した後,"Arrow Tool"モードを選択する事で,選択範囲を他の場所に持っていく事もできます.勿論,この操作も音として反映されます.
更に,"Filter Tool"モードにして,範囲選択をし,ctrlキーを押しながらマウスを上下させると,選択範囲を強調・抑制ができます.
グレーが強調,赤が抑制した部分です.
ライン上にフィルタを定義する事もできます.同様に強調,抑制が可能です.
一通りいじりましたね.
一通り編集が終わったら,Processing -> Process Treatments を選択し,各パラメータを設定し,Processを押すと,今編集した内容が適用されたオーディオファイルが書き出されます.
いかがでしょうか?今やった内容が適用された音声になったのではないかと思います.
これが,Audio Sculptのオーソドックスな使い方です.これらの操作自体は,一つ一つはこのソフトを使わなくても簡単にできる内容のものです.しかし,これほどインタフェースとしてまとめられているソフトウェアは他にはないと思います.しかも,これはAudio Sculptの機能のほんの一部でしかありません.
また面白い機能を見つけたら,本ブログで報告したいと思います.
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